Cubase は作編曲、ミキシングからスコア作成まで、音楽制作の全てのプロセスをサポートする音楽制作ソフトウェアです。Cubase は5つのグレードに分かれており、それぞれ機能や価格が異なります。この記事では Cubase シリーズのグレードごとの違いと、自分に適したグレードの選び方について詳しく解説します。
Cubase 13 シリーズの概要
主な機能比較と価格差について
Cubase は上位グレードから順に「Pro」「Artist」「Elements」「AI」「LE」の5つに分類されています。
下記の表は、グレードごとの価格差と機能差の一部を抜粋したものです。
グレード | Pro | Artist | Elements | AI | LE |
価格 | ¥69,300 | ¥39,600 | ¥13,200 | 無料 | 無料 |
最大オーディオトラック数 | 無制限 | 無制限 | 48 | 32 | 16 |
最大VSTインストゥルメントトラック数 | 無制限 | 無制限 | 24 | 16 | 8 |
インストゥルメントのサウンド数 | 3000 以上 | 2600 以上 | 1500 以上 | 1500 以上 | 1500 以上 |
エフェクトプラグイン数 | 87 | 62 | 45 | 28 | 23 |
※表記の値段はフルバージョン新規購入時の定価です。
※ Cubase は旧バージョンや下位グレードからアップデート&アップグレード購入することもできます。
- オーディオトラック
オーディオファイル(録音された音声や楽器、サンプルなど)を配置、編集できるトラック。
- VSTインストゥルメントトラック
ソフト音源(仮想楽器)を使って音楽制作するためのトラック。
- インストゥルメントのサウンド
ソフト音源によって生成される音色のことを指す。サウンド数が多い=様々な音色が扱える。
- エフェクトプラグイン
オーディオトラックやVSTインストゥルメントトラックの音を変化させるためのプラグイン。リバーブやディレイ、ディストーションなど、様々な効果のエフェクトプラグインが用意されている。
Cubase AI と Cubase LE は単体販売していません。この2つのグレードは、オーディオインターフェイスなどのDTM製品の付属品として提供されています。
Cubase AI と Cubase LE が付属するDTM製品については以下の記事で紹介しています。
音質の違いについて – Cubase LE 以外は全て同じ
Cubase AI 以上のグレードなら音質は全て同じ(もちろん高音質!)です。Cubase LE のみ最大サンプリングレートが 96 kHz ですが、96 kHz でも十分過ぎるほど高品質なのでまず困ることはないでしょう。
- オーディオエンジン:64 bit
主にノイズの軽減や、ダイナミックレンジ(小さな音と大きな音の差の表現力)に影響する数値。現在の音楽制作やオーディオ処理で一般的に使用される最高の数値が 64 bit です。
- 最大サンプリングレート:192 kHz ※ Cubase LE のみ 96 kHz
録音した音の再現性、特に周波数帯域(音域)に影響する数値。一般的には 44.1 kHz、または 48 kHz あれば十分。
動作環境の違いについて – どのグレードも必要なスペックはほぼ同じ
Cubase は「Windows」「Mac」両方のOSで使うことができます。必要な基本スペックはどのグレードでも同じですが、インストール時に必要なハードディスクの空き容量のみ異なります。
対応OS
- Windows 11 Version 22H2以降 / Windows 10 Version 22H2 以降 ※64ビット版のみ
- macOS Sonoma, Ventura, Monterey
CPU/プロセッサ
- Intel i5 以上
- AMD マルチコアプロセッサー
- Apple シリコン
メモリ(RAM)
- 8 GB以上
ストレージ(ディスクの空き容量)
- 75 GB
※より詳しい動作環境についてはこちらで確認できます。
各グレードの特徴と、自分に適したグレードの選び方
Cubase Pro
Cubase Proは Cubase シリーズの最上位グレードです。プロフェッショナル向けの機能が搭載されており、エフェクトやサウンドライブラリも豊富で、音楽制作を本格的に行いたい人やプロ志向の人に最適です。
Cubase Pro で出来ること
- Pro 限定の高機能なエフェクト
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- クセがなく扱いやすい8バンドのパラメトリックEQ「Frequency EQ 2」や、4つの周波数帯域に分割して異なる設定ができる「Multiband Compressor」など、ミキシングやマスタリングに役立つプラグインを多数搭載しています。
- 実在するコンサートホールや教会などの音響効果(リバーブ)を再現できる「REVerence」や、ディレイとフィルターを組み合わせた飛び道具系の「ModMachine」なども魅力的です。
- EQ / スペクトラル比較
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- 2つのチェンネルのEQ設定とスペクトラルカーブを1つのウィンドウに重ねて表示できます。キックとベースのEQバランスを調整したいときなどに便利です。
- Control Room
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- Control Room は、複数のモニタースピーカーやヘッドフォンを繋いで瞬時に切り替えたり、ミキシングやマスタリング時のリファレンス用に異なるオーディオ出力の設定ができる機能です。特にリファレンス音源を使う際に重宝します。
- サラウンドサウンド
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- 5.1ch や 7.1ch などのサラウンドミックス、VRミックス、Dolby Atmos にも対応しています。
- その他の便利な機能
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その他にも、複数のトラックの相対的なバランスを維持したまま一括してレベル調整できる「VCAフェーダー」や、ラウドネス値が測定できる「ラウドネスメーター」、MIDIデータの検索と操作を指定することで複雑な処理を自動化できる「ロジカルエディター」など、作業を効率化できる機能が盛り沢山です。
※ Cubsae Artist 以下のグレードに搭載されている機能は Cubase Pro にも備わっています。
Cubase Pro はこんな人におすすめ
- 本格的に音楽制作に取り組みたい方、プロまたはプロ志向の方
- すでに他のDAWソフトやCubase Artist 以下のグレードを使っていて、機能不足や不便さを感じている方
- 予算に余裕がある方
Cubase Artist
Cubase Artist は、Cubase Pro の機能を一部省略した中級者向けのグレードです。Pro に比べて手頃な価格でありながら、トラック数は無制限で、高度な編集機能も備えています。音楽制作を本格的に始めたいが、最初はコストを抑えたい人におすすめです。
Cubase Artist で出来ること
- トラックを無制限に追加できる
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- 追加できるトラック数に制限がないため、多くのトラックを必要とするアレンジや、ビッグバンドやオーケストラなどの大編成の録音に対応できます。
- Artist 以上のグレードで使える高機能なエフェクト
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- 複雑なリズムとサウンドを作り出すことができる「MultiTap Delay」や「FX Modulator」、ディストーションとディレイを4つの周波数帯域に分割して異なる設定ができる「Quadrafuzz 2」など、高機能なプラグインを搭載しています。
- MIDIエフェクト
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- MIDI データをリアルタイムに変換し、演奏やアレンジを拡張できる複数のMIDIエフェクトを利用できます。
- 入力されたMIDIデータを元にアルペジオパターンを生成する「Arpache」や、入力された単一のMIDIノートから和音を自動的に生成する「Chorder」、入力されたMIDIノートに基づいてエコーを生成する「MIDI Echo」など、クリエイティビティの高いエフェクト機能が揃っています。
- VariAudio
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- ボーカル録音のピッチ編集とタイミング修正ができます。
- ボーカルだけでなく、モノフォニック (単音) 録音の楽器(ベースやサクソフォンなど)でも利用できます。
- ボーカルのピッチ補正機能に関しては、サードパーティ製品を超える品質の高さです。
- テンポトラックと拍子トラック
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- 曲の途中でテンポ(BPM)と拍子を自由に変化させることができます。
- Cubase 拍子とテンポの設定について。拍子トラックとテンポトラックの使い方も解説。 オーディオ録音やMIDIの打ち込みを始める前におこなっておきたいことが、楽曲の拍子とテンポの設定です。 今回は、拍子とテンポの基本的な設定方法に加えて、曲中に拍子…
- バーチャルインストゥルメント(ソフトウェア音源)が充実
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- アナログシンセの温かみある音色を再現できる「Retrologue」、アトモスフィア系のサウンド作りに適した「Padshop」などのソフト音源が付属しています。
- その他の便利な機能
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その他にも、オーディオ素材のタイミング修正ができる「オーディオワープクォンタイズ」や、複数のトラックやイベントを一度にオーディオ出力できる「インプレイスレンダリング」など、便利な機能が搭載されています。
※ Cubsae Elements 以下のグレードに搭載されている機能は Cubase Artist にも備わっています。
Cubase Artist はこんな人におすすめ
- 音楽制作を本格的に始めたいが、予算に限りがある方
- 多くのトラックを利用したり、曲中でテンポが変わる複雑な楽曲を作りたい方
- ボーカルトラックのピッチ修正や、オーディオデータの演奏タイミングを修正したい方
Cubase Elements
Cubase Elements は DTM入門者向けのグレードで、単体購入できるグレードの中では最も低価格です。基本的な音楽制作機能が搭載されており、音楽制作を始めたばかりの人や、DAWソフトに慣れるために試してみたい人におすすめです。Cubase Elements の編集機能やエフェクト、サウンドライブラリは上位グレードと比べて制限がありますが、基本的な音楽制作は十分に行えます。
Cubase Elements で出来ること
- 1000 種類以上のインストゥルメントサウンドを搭載
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- インストゥルメント(ソフト音源)で使用できる音色の数は、Cubase AI / LE で 185 種類以上ですが、Elements になると一気に 1000 種類以上に増えます。豊富なサウンド数は、クオリティやオリジナリティの高い楽曲を作る助けになります。
- Elements 以上のグレードで使える便利なエフェクト
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- ギターアンプの音作りとギター向けエフェクターをシュミレーションした「VST Amp Rack」や、複雑なディレイを作りだせる「PingPongDelay」、「StereoDelay」などのプラグインを搭載しています。
- また、音の輪部(トランジェント)の聞こえ方を変化させて距離感とアタック感を調整できる「Envelope Shaper」や、音圧を一気に上げられる「Maximizer」、音圧調整だけでなく音色に温かみを付加してくれる「Vintage Compressor」、「Tube Compressor」など、ミキシングに役立つプラグインも搭載しています。
- スケールアシスタント
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- MIDI データの入力時に、指定したスケールから外れたノートを色分けしたり、外れたノートをスケール内へ自動で補正できます。自動補正はMIDIのリアルタイム演奏時に適用できます。
- オーディオから MIDI コードを生成
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- オーディオデータからコードを検出し、MIDIコードを生成できます。
※コード検出の精度はオーディオデータの内容に左右されますが、基本的に精度はイマイチです。今後のアップデートに期待。
- オーディオデータからコードを検出し、MIDIコードを生成できます。
- サンプラートラック
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- 取り込んだオーディオ素材のピッチや長さを簡単かつ細かく調整することができ、その音をMIDIキーボードで演奏したり打ち込むことができます。
- ダンスミュージックなどのビートメイキングに最適です。
- その他の便利な機能
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その他にも、時間軸を気にせずセクション単位で楽曲を制作&管理でき、ライブパフォーマンスにも活用できる「アレンジャートラック」や、エフェクトの細かい制御やダッキングなどのアレンジに活用できる「サイドチェーン」など、便利な機能が搭載されています。
※ Cubsae AI 以下のグレードに搭載されている機能は Cubase Elementst にも備わっています。
Cubase Elements はこんな人におすすめ
- 音楽制作を始めたばかりの方や、まずはDAWソフトに慣れることからスタートしたい方
- すでにオーディオインターフェイスやMIDIキーボードを所有している方
※持っていない場合は、後述する Cubase AI / LE が付属する機材の購入をオススメします。
Cubase AI / Cubase LE
Cubase AI と Cubase LE は他のグレードとは扱いが異なり、単体販売していません。この2つのグレードは、オーディオインターフェイスなどのDTM製品の付属品として提供されています。無料版のグレードなので使える機能は最低限ですが、オーディオインターフェイスやMIDIキーボードを持っていない場合は、Cubase AI または LE が付属するDTM製品を購入してコスパよくスタートするのもオススメです。
Cubase AI と Cubase LE が付属するDTM製品については、以下の記事で詳しく解説しています。
Cubase AI / Cubase LE で出来ること
- 基本的なオーディオ録音、MIDI録音に対応
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- トラック数には制限がありますが、基本的なオーディオ録音やMIDI録音、MDIIデータの打ち込みに関しては上位グレードと同じように行なえます。
- 基本的かつ実用的なエフェクトを漏れなく搭載
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- 音圧が調整できる「VST Dynamics」、周波数のバランス調整ができる4バンド対応イコライザー「Standard Channel EQ」、シンプルな操作でリバーブやディレイがかけられる「Roomworks SE」と「MonoDelay」など、実用的なプラグインを搭載しています。
- 汎用性の高い2つのVSTインストゥルメント(ソフト音源)を搭載
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- 「Groove Agent SE」・・・生ドラムや電子ドラムのサウンドと演奏パターンを多数収録したドラム音源。
- 「HALion Sonic SE」・・・ピアノやシンセサイザーなどの鍵盤楽器や、ギター・ストリングスなどの弦楽器、更には管楽器や打楽器の音色まで取り揃えているマルチ音源。
- コードトラックとコードアシスタント
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- コードトラックを使えば、楽曲のコード進行を管理できます。コード譜としても使えますし、入力したコードをMIDIデータにして、ソフト音源で鳴らしたり編集することもできます。
- また、入力したコードに基づいて、その後のコード進行を提案してくれるコードアシスタント機能も備えています。
- スコアエディター
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- MIDIノートを楽譜として表示することができ、五線譜を使ってMIDIデータを打ち込むこともできます。
- スコアエディターで表示した楽譜は印刷することもできます。
- オーディオとMIDIのプリレコード
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- 録音をしていなくても、一定時間内に入力した演奏データであれば Cubase へ取り込むことができます。
Cubase AI / Cubase LE はこんな人におすすめ
- 本格的な音楽制作ではなく、簡単なデモ制作などを行いたい方
- オーディオインターフェイスやMIDIキーボードを持っていない方
まとめ
- Cubase は上位グレードから順に「Pro」「Artist」「Elements」「AI」「LE」の5つに分類されている。
- グレードごとの価格差や機能差、音質、動作環境の違いについて解説。
- 各グレードの特徴と、自分に適したグレードの選び方
- Cubase Pro : 最上位グレード。音楽制作を本格的に行いたい人で、予算に余裕がある方向け。
- Cubase Artist:中級者向けグレード。音楽制作を本格的に行いたいが、予算に限りがある方向け。
- Cubase Elements:入門者向けグレード。音楽制作を始めたばかりの方や、DAWに慣れるために試してみたい方向け。
- Cubase AI / LE:DTM製品に付属する無料版グレード。簡単なデモ制作などを行いたい方や、オーディオインターフェイスなどのDTM機材をまだ持っていない方向け。
Cubase は下位グレードから上位グレードへアップグレードすることもできます。アップグレード版はフルバージョンの新規購入よりも低価格で購入できるので、最初は下位グレードからスタートして、必要性を感じたら上位グレードへのアップグレードを検討するのもオススメです。
以上、参考になれば幸いです!